NUARL NX110A レビュー
NUARL NX110A-MC
「カスタムをオーダーしてしまったからもう今年中はオー活しない」
みたいなことを言っていましたが、やっぱり無理でした。
新しいイヤホンを開拓しようとアキバへ出向いたところ、出会ってしまったのです。
ご存知でしょうがわたくしたろは低音にはうるさく、といいますか低音が全てといったくらいの低音バカなものですから、そんじょそこらのイヤホンじゃ満足できないのです。
が、このイヤホンときたらもうドンピシャで、思わずにやけてしまい周りから変な目で見られていなかったかと心配したほど。
それはもうとてつもなくほれ込んでしまい、またお値段たったの4,000円ということですから、迷うことなく購入へ踏み切ったというわけです。
高いイヤホンをいくつも持っているからでしょうか、感覚がマヒしてしまっているのだろうなぁと。
5,000円程度のイヤホンじゃなんとも思わなくなっていることに、さすがに危機感を覚え始めました。
もうちょっと節度を持っていきたいと思います(多分無理)
購入のきっかけとしては低音の迫力に魅せられてということなのですが、こいつの本当の凄さは低域にはありません。
非常に優秀な子ですので単なるアホイヤホンと勘違いされないようにだけお願いします。
詳しくは後程。
目次
概要
NUARL(ヌアール)は国内にて2016年11月に設立したばかりの新興オーディオブランドで、わずか1年の間に既に8種類のイヤホンをリリースしています。
カラーバリエーションの豊富で安価なリモコン付きモデルから、Bluetooth対応モデル、競合機種の多い10,000円のイヤホンまで幅広く展開しているようです。
特に5,000円周辺の価格帯に力を入れているブランドといったイメージで、今後も新たなモデルが期待できそうです。
そんな低価格路線で攻めているNUARLから、NX110Aを購入しました。
公式ストアで4,298円、その他販売店ではそれより数百円ほどやすくなっているという感じです。
カラーバリエーションはマットカッパーとマットグレーの2色展開で、今回わたしが購入したのはマットカッパーです。
あまり見ない渋い色に惹かれて聴いてみれば思った以上に良かったためそのまま購入という経緯なので、この色には感謝しなければなりません。
そもそもこのブランド・イヤホンともに全く知らずに購入したわけなのですが、後になって調べてみたところこのNX110Aは今年の6月に発売されたばかりなんだとか。
また購入者はどれほどかと見てみると、わたしのフォロワーさんにお一人でそれ以外にも10人いるかいないかってくらいで思ったよりは売れ行きがいいかなという印象です。
スペックとしてはφ9mmのダイナミックドライバを1基搭載したオーソドックスな構成で、再生周波数は5~70,000Hzとのこと。
数値的にはハイレゾに十分対応しているということですが、別にどうでもいいです。
この価格帯なら良くあること。
開封
パッケージは非常に簡素で価格なりといったところでしょう。
画像のように箱には窓が設けられており、中のイヤホンが覗けるという仕様です。
普通の厚紙でできた外箱、その中にはウレタンのシートにはめ込まれたイヤホンが入っております。開封の演出のようなものも一切なく、あくまで4,000円のイヤホン相応という感じです。
イヤホン本体以外の内容物はイヤーピース3サイズと保証書のみで、こちらに関してもまったくもっておもしろみのカケラもありません。
必要最低限といった感じでこの価格帯にありがちなクリップやケースのようなものも一切付属しません。
外観
マットカッパー(MC)というカラー名の通り、筐体はマットでサラサラとした仕上がりになっています。
対してハウジングにだけは鏡面仕上げのパーツがはめ込まれており、ブランドロゴとともに良いアクセントになっているように思います。
ステム側の円からハウジングへ向かうにつれてこのはめ込みパーツの逆三角形に遷移していくような筐体形状になっており、これが結構好みです。
ステム側はこのような感じになっています。
こちらの黒いパーツも同様のマット仕上げになっており、ダイナミックドライバ用のベントと思しき孔も見受けられます(筐体下部にも同様の孔があるんですけどこれどっちもベントなのでしょうかね...)
ステムに角度が付いたタイプなのでこちらが装着感の向上に一役買っていることでしょう。
ケーブルは全体が黒いチューブ被膜に覆われています。
この被膜がぶよぶよとしたゴム感丸出しの質感になっており、非常に安っぽく感じてしまいます(実際安いのですが)
またこちらはチューブの内壁と線材との間に隙間が生じるような中空構造になっているとのこと。
実際にケーブルを指で軽く押し潰してみれば内部に余裕があることが分かります。
この中空構造と衝撃を吸収する被膜の質感が相まってタッチノイズを軽減させることを可能にしているらしいです。
分岐部及びスライダーは簡易なゴム成型タイプで質素なのですが、プラグの方はガンメタの金属カバーで作られており、比較的良い感じなのではと思います。
ストレートプラグを採用してくれているのも個人的には使いやすくてうれしいところ。
またリモコンやマイクの類が搭載されていないのも非常にありがたいです。
低価格イヤホンをメインに展開しているこの手のメーカーだとモデル問わずリモコンを載せたがるのですが、NUARLは一般向けのスマホ対応イヤホンとマニア向け音質重視イヤホンの2ジャンルを展開しているため、こういうところに関してもしっかりと対応してくれているのは好印象です。
使用感
特にこれといって筐体が大きかったり太かったりというわけではないのですが、なぜかあまり奥まで挿せないような印象を受けます。
イヤーピースはいつもよりも一回り大きいものを使う方が良いかもしれません。
わたしも普段はMサイズなのですがこちらはLサイズのものを使用してぴったりでした。
イヤーピース自体は安価なイヤホンの付属品にしてはクオリティがそこそこといった感じで、厚手のシリコン製ですので保持力も十分です。
社外製のものに交換するのも良いですが、装着感という点ではわざわざ交換する必要も感じないくらいです。
サイズの合うイヤピを使いさえすれば十分な装着感が得られることでしょう。
ドライバをステム側に寄せることで重心位置が内側にあるために装着感が向上している、というような説明書きもあったのですが、正直それのおかげかどうかなんてわかりません。
またSHURE掛けも一応は可能になっています。
公式として対応しているというわけではないのですが、わたしはしっかりと装着できました。
ステムに角度が付いているとひっくり返したときにうまく耳にハマらないという事態になりがちなのですが、こちらは絶妙に収まってくれました。
ケーブルが頬に当たるのが嫌すぎて極力SHURE掛けをしたいと思っているため、なんとかなって良かったです。
タッチノイズを防ぐという目的でぶよぶよな被膜と中空構造を採用しているらしいケーブルですが、心なしかノイズが少ないかなという程度で、残念なことに際立って優れているというようには感じませんでした。
それ以上に、被膜の質感が原因でスライダーが引っかかってうまく動かしづらいということの方が個人的には気になります。
まあスライダーなんてそう頻繁に動かすようなものでもないのでぶっちゃけ構わないのですが...
逆に絡まりづらいというのは評価ポイントです。
しっとりとした表面でケーブル同士の引っかかりも強いはずなのですが絡まらないというのが謎です。
恐らくは被膜が弾性に富んでいるため丸めても容易に引き延ばすことが出来るということなのでしょうが、狙っていたのであれば天晴です。
音質
こいつの良さを伝えるとするならば、濃いという一言に尽きるかと思います。
カマボコ傾向なのですがピークは中域から低域にかけての帯域にあるようなイメージで、音の密度が高いのが特徴的です。
購入へと踏み切ったのも低音の量感と並んでこの濃厚な音色に感動したからです。
音のつながりが非常になめらかでありながらもダマになることがありません。
分離が良いという表現は個人的にはどうしてもカリカリとした粒立った音を想像してしまうため、それとは違うように思います。
解像度という点でも同様で、際立って音が細やかであるようにも感じられません。
対して音像の立体感や空間的な表現力に関しては光るものがあり、定位がビシッと決まっていることも印象的です。
個人的にはジャズのピアノトリオが大の好物なのですが、NX110Aでこのピアノトリオを聴くと楽器の配置が手に取るようにわかるというような表現がまさにぴったりと当てはまるように思います。
ライブ音源だったりするとお客さんの声が入っているようなこともあるのですが、そんなものまで余すことなく伝えてくれるためクスっとしてしまいました。
例えば向かって左に位置する楽器の音が鳴ったときに、左側から聴こえるというよりも”左耳から”聴こえてしまうということがイヤホンにありがちですが、NX110Aだとそのようなことがなく音の発生源の配置をしっかりと再現できているように思います。
一音一音逃さず聴き取るといった分析的な視聴スタイルには明らかに向かず、イヤホンの持つ個性によって色づけられた音楽を楽しむことになるでしょう。
中低域重視型でしっとりウォーム系の傾向であるためHiFiサウンドからは外れる形になりますが、この柔らかい音色もこれはこれで良いものです。
中域
帯域ごとに見ていった際に最も注目すべきなのは中音域の表現力でしょう。
初めに聴いた時は低域の迫力に圧倒されてしまったのですが、普段のアホみたいなブーストを除けば中域の実力が非常に高いことがしっかりと感じられました。
ボーカルや楽器演奏がクリアかつ鮮やかで、残響や余韻といったものまで上手く鳴らし上げてくれます。
表現力の高さや空気感といったものにこの中域の響きが合わさることでゆったりとした上品な音色に仕上がっており、聴いていてとても心地いいです。
ピアノ演奏では透明感を持っていながらもしっかりと芯があってみずみずしさが感じられますし、バイオリンソロの余韻にはうっとりとさせられます。
派手とまではいかないが適度に鮮やかさを付け加えつつ、音の滑らかさをもって空間を上手く利用している演出が魅力的であると言えるでしょう。
またボーカル曲を聴きますと輪郭のはっきりとした響きとともにボーカリストのブレスやリップノイズといった細やかな部分までもが鮮明に聴き取れます。
男声ですと低音域にかけての厚みが絶妙で、安定感のある音像になっています。
ふっくらと丸みを帯びた柔らかさが感じられ、リスナーを優しく包み込んでくれるような暖かい雰囲気を持っています。
対して女声はかすれるような場面が見られ、高音パートに入ると輪郭のキレがもう少し欲しいかなと感じてしまうことがあり、ここに関しては残念です。
他のイヤホンの試聴時にはどうしても各帯域とのバランスにばかり目を向けがちなのですが、NX110Aは中域を聴いてくれとでも言わんばかりの存在感とクオリティを誇っています。
ジャズ楽曲の再現性、表現力という観点からの評価に関しては、今後はこのイヤホンが個人的な基準となるのではないかというほどの実力になっているように思います。
低域
中音に次ぐ形で主張を感じられるのが低音です。
全体を底からしっかりと支えられるだけの量感を持っており、音の厚みやパワーという点でも十分です。
鋭さや弾力のようなものは少ない印象で、どっしりと重心が低く腹の底に響き渡るような低音表現になっています。
非常に優秀なイヤホンなだけにいつもの低音厨としてのバカっぷりを発揮するのが少々憚られるのですが、ここは思い切って低音のブリブリっぷりに関して語らせていただくとしましょう。
なんせこのイヤホンを買うきっかけを与えてくれたのが低域なわけですし。
確かに、通常のDAP類に繋げれば中域のすごさが際立っていることは疑いようもありません。
しかしながら、低音のうるさい音源を聴けばそのポテンシャルが見え隠れしますし、イコライザで低音側を少し持ち上げてするだけで一気に化けてくれるものですから心が躍ります。
前述の通り全体が柔らかい雰囲気を持っているため、この状態で低音を増やしていけば自ずとボワボワへと収束していくわけなのです。
素の状態では中域以上を邪魔しないレベルに落ち着いていた低音が膨らみをもって高域にまで侵食していき、全体を支配していくの様は圧巻。
これぞわたしの求めている真の低音だという具合に、好みのど真ん中を撃ち抜いてくれました。
「本当は真面目なんだけどむりやりボワボワに押し上げている」
という背徳感の中でブーストを楽しんでいこうと思います。
馬鹿話はここまでで、低域についても少しだけ真面目に。
ピアノトリオにおける低音パート担当のダブルベース、その弦を一本一本はじいたときの響きなんかは非常に厚く、身体の芯から揺さぶられるような重みをもって押し寄せてきます。
低音が極まると音というより空気の圧力を直に感じられるようになるとは言ったものですが、まさにそれです。
上ずることが一切なく常に安定しているため安心感すら覚えます。
高域
そして残された高域です。
大別した3つの音域の中ではもっとも主張の弱いパートになるわけですが、決して劣っているというわけではありません。
メインである中低域の存在感を阻害することなく、それでいてしっかりとした輪郭をもってそこに存在しています。
優しく謙虚な響きとなっており、低域を重視している身からすればこれは非常に評価が高いです。
少し話は逸れますが、他の帯域を邪魔する云々という話題って低域に関する評価の中で語られることが多いように思いませんか。
恐らくこれは高域を重視したユーザーが圧倒的に多いことが原因でしょう。
「低音の量は十分であるが、決して他にかぶさることはない」
「少し低音の主張が強すぎて高域がマスクされてしまっている」
などなど、低域の余波がどれほど中高域へ及んでいるかというような内容のレビューはよく見受けられるかと思います。
しかしながら、高域に関してもまた同様であると思っています。
ゆったりとした傾向に落ち着いているようなイヤホンですと、逆に高域の質も重要になってくるのです。
例えば今回のように中域~低域の厚みや膨らみといったものを前面に押し出している機種であるのに高域がギンギンと金切り声をあげていては、せっかくの上品な音色が台無しになってしまうことでしょう。
高域が中低域への影響力を持っていることは疑いようもありません。
これは決して悪いことではなく、この影響が良い方向へ働いているパターンも多いです。
そういうわけで低域側にフォーカスの当たったイヤホンとしては高域もそれなりに大事になってくるのですが、NX110Aに関してはその心配はありません。
シンバルやハイハットはしっかりシャキシャキとクリアに鳴らし上げていながらも、なめらかに優しく響き渡ります。
先ほども書いたように、独特の空気感に埋もれることがないだけでなく、全体のバランスを見据えた量感・質感を備えているため耳障りな音色にならずにうまく調和できているように思います。
音質まとめ
中域のリアリティを中心として迫力ある低域と柔らかな高域が印象的となっています。
各帯域のバランスだけでは語り尽くせない独特の味付けや空気感もまた特徴であると言えるでしょう。
ゆったりとした音のつながりをもったイヤホンですので、軽やかな楽曲を聴くと音が遅れて付いてくるような印象を受けてしまう可能性があります。
曲に関しても同様のスローペースなものと合わせる方が、このイヤホンの持つ良さを引き出せるように思います。
ジャンルとしては先に書きましたジャズのほかにはクラシックやバラード系との組み合わせがおすすめです。
クラシックであれば大編成のオーケストラでもしっかりとしたパワーでもって響かせてくれますし、逆にソロ形態であれば奏者の表現をうまく伝えてくれることでしょう。
ボーカル曲と合わせるにしてもやはりしっとりとしたバラードとの相性がより良いかと思います。
”ボーカルの息遣いが聴こえる”なんていうお決まりの文句がありますが、まさにその通り再現されていて曲への没入感は抜群です。
アナログ時代のライブレコーディング音源だったりするとヒスノイズが乗っているようなこともありますが、これがうまい具合に軽減されてボーカルをより鮮明に聴き取れたりといったようなこともあります。
総評
高域 ♫ ♫ ♫
中域 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫
低域 ♫ ♫ ♫ ♫ ♪
装着感 ♫ ♫ ♫ ♪
デザイン ♫ ♫ ♫ ♫
総合 ♫ ♫ ♫ ♫ ♪
音については散々話したので省くとして、やっぱりデザイン性に関して善戦しているように思いますね。
落ち着いた色合いのマットカッパーというカラーリングが音色とマッチしていて趣が感じられます。
ハウジング形状も個人的には気に入っており、同社の他のモデルではただの筒状の筐体も存在する中でNX110Aがこの形になっていてくれてうれしい限りです。
こうやって改めて見てみると結構気に入ってるんだなぁと思わされます。
ただこちらは安さを加味したものではなく、あくまでイヤホンの本質だけを見て評価しているつもりです。
「4,000円なのにこのクオリティか」
ということを考えなかったわけではありませんが、できる限り価格に関しては頭から除けて採点するよう努めました。
イヤホンの良し悪しを決めるのはなかなかに難しいものですが、絶対的な評価としてNX110Aが良い音を奏でてくれることは間違いありません。
昨今のイヤホン業界における新たな激戦区ともなっている5,000円付近の価格帯ですが、その中でもあまり見ない音色として異彩を放っているように思います。
発売から間もないということもありますし、今後さらに注目されることを願うとしましょう。