あみあみ紀行

低音を増やすことしか考えていないポタオデ趣味のたろがケーブルを自作したりイヤホンを買ったりする旅のお話

acoustic effect TRY-01 試聴レビュー

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acoustic effect TRY-01

 

 

わたしの大好きなメーカーの一つであるacoustic effect(通称アコエフ)から、先日新しいモデルが登場しました。先月のヘッドホン祭にて営業さんとたまたまお会いして、近いうちに新商品を発売するという旨を聞いていたのですが、本当にすぐでした。アコエフは秋のヘッドホン祭には出展しておらず、参加者側としていらっしゃった営業さんにお会いできたのですから、まさに偶然といった感じでした。

 

出展していなかったというのも、当初の予定ではこのTRY-01を掲げて出るつもりだったようなのです。しかしながらギリギリまで粘ったものの当日にサンプルを東京まで持ってこられるかどうかが怪しかったため、やむなく出展を取りやめてしまったのだとか。別にYSMだけだったとしてもいつも通りブース出したらよかったのに...

 

いずれにせよ、こうやってリリースできたわけですからよかったというものです。アコエフのイヤホンってだけで発売前から期待値はMAXだっただけに若干辛口評価な部分もありますがどうか参考程度に。

 

目次

概要

acoustic effectは2015年に設立された国内のイヤホンメーカーで、同年6月に最初のイヤホンであるYSMシリーズを発売しました。内容物を全て純国産でそろえているというこだわりはこれまでになかった方向性で、イヤホンそのものの完成度の高さととも登場から瞬く間にポータブルオーディオ界で話題となりました。

 

その後特殊カラーの数量限定モデルを販売したり、ボイスコイルにOFCを使用したモデルを新展開したりと製品開発に意欲的なアコエフですが、この度待望のエントリーモデルが登場しました。これまでは6モデル展開で最も安価な機種でも37,000円ほどというものでしたが、今回それの半額以下という価格のイヤホンを発売することとなりました(冒頭のWEB本店リンクでは18,114円となっていますが、店頭では画像の価格でした)

 

また本機種は安いことだけでなく、e☆イヤホンでのみの販売であるということも注目すべきでしょう。アコエフのイヤホンは直販から始まり、いまではフジヤエービックやじゃんぱらなどでも試聴・購入が可能になっているものの、国内イヤホン専門店最大手のeイヤでの販売は成されることがなく、ようやくかといった感じです。

 

といってもeイヤにおけるアコエフの取り扱いはこのTRY-01のみとなっており、YSMに関してはこれまで通りということのようです。どういったこだわりがあるのか非常に気になるのですが、イベントでわざわざ聞く勇気もなく...

外観

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これまでのYSMシリーズとは全体の見た目が大きく異なります。

まず筐体ですが、素材としては今まで通りの金属製となっているものの、YSMの寸胴体形とは異なってステムからハウジングへ向かうにつれて細く絞られており、ドングリのような形状に仕上がっています。

 

最も太い部分の太さはYSMと変わらないように感じますが、全長に関してはこれまで最も小ぶりだったYSM-01よりも明らかに短くなっており、全体としてよりコンパクトにまとまっています。ステムの形状には変更は見られませんので、装着感に定評のあるアコエフイヤピをこれまで通り装着できます。

 

本体カラーが複数存在するという点も重要でしょう。わたしが試聴したeイヤ秋葉原店ではブルーグレーが試聴機として展示されており、この他にグリーンブラスを含めた全3色展開となっております。ステム側はいずれも銀色で統一されており、お尻側がそれぞれの色になっているというツートンカラーが特徴的です。

 

この色の配分はYSM-01/OFCでのピンク/シルバーを彷彿とさせますね。これまで限定モデルとして色違いを販売した経緯はありますが、通常ラインナップとして1つのモデルに複数のカラーリングを用意したのは今回が初めてです。

 

eイヤのイメージ画像を見る限りではグリーンが非常に濃い色となっており、個人的にはこちらのカラーに最も魅力を感じます。緑といいますと、塗料と金属素材との相性からどうしてもムラが出来てしまったり、理想の発色を得られなかったりといった問題が多いようなのです。緑の金属筐体イヤホンがあまり見られないのもこれが原因だそうで。

 

いまやハイエンドイヤホンの代名詞ともなりつつあるCampfire Audio Andromedaもまた緑のイヤホンですね。しかしこちらは製品化にこそ踏み切れたものの、製作途中で塗装に失敗してしまって廃棄というケースも頻発してしまうようで、販売されている実機の色合いも個体によって若干異なる場合があるらしいですから、緑の塗装はそのくらい難しいことなのでしょう。

 

それが今回アコエフの手によって無事に発売されたのですから、全国の緑推しは是非とも確認してほしいところです。eイヤWEB本店での記載によると、グリーンを試聴機として展示しているのは名古屋大須店のみということだそうですので、実機の色合いを確認するには名古屋へ出向くほかないようです。頼み込んだら奥から引っ張り出してくれる可能性もあるかもしれませんが...

 

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またケーブルについても語られるべきでしょう。

ここに関して最初に見たときにちょっとびっくりしてしまったものですから... リッツ線を撚り合わせた状態でチューブを被せるというオーソドックスな構造になっているのですが、ただこのケーブル、どうにも安っぽく見えて仕方がないのです。

 

中華ハイコスパイヤホンが揃いも揃ってこういうケーブルを採用しているので、どうしてもそれを連想させてしまうのがいけません。チューブが若干茶色がかっていて中のリッツ線が透けて見えてしまう仕様が、Aliexpressなんかで売ってるブランドもクソもない数千円やそこらのイヤホンと酷似しているのです。平行ケーブルを割いて分岐させているという点もこの安っぽさに拍車をかけており、本当にもったいないとしか言いようがありません。

 

「YSMのケーブルは巻き癖が付きやすい(というか開封時に付いている癖が取れない)ので次回以降に出すモデルでは改善されてたらうれしい」

という旨を過去のイベントで営業さんに言ってみたのですが、まさかこうくるとは...予想の斜め上とはこのことかと妙に納得してしまいました。

 

恐らくはこれといった意図はなく、単にコストを削減しつつもそれっぽい感じのケーブルを作っていこうと考えた結果これに落ち着いたのでしょう。これまでずっと何万円もするイヤホンを提供し続けてきたわけですから、製作陣が安価な中華イヤホンを知らなかったということも十分に考えられます。ただ、それにしたって、この見た目でGOを出してしまったのかと思うとどうにもやるせないです。

 

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分岐部やプラグがゴム成型パーツという点も安っぽさという演出にはもってこいでしょう。ゴム成型という点ではYSMも同様なのでが、あちらは全体のバランスとして質素・堅実といった感じに仕上がっているのに対して、こちらは線材との組み合わせの悪さも相まってチープさという印象がぬぐい切れません。本当に惜しいことをしてしまったなぁという感じです。

 

いくらエントリーモデルとは言っても、それでも16,000円もする訳ですから、イヤホンとしては十分高級モデルと言ってしまえるレベルでしょう。それにもかかわらずこのパーツというのは本当に本当に

「もうちょっとなんとかならんかったんか」

という気持ちでいっぱいです。

 

せっかく高級感を感じられる金属筐体もこのケーブルに繋がれただけで途端に胡散臭いイヤホンのように見えてきますし、後述する通り音に関してはこれまで通り非常にクオリティの高いところに落ち着いているだけに、それに見合わない見た目になってしまっているのは涙が溢れてくるほどです。

 

まあここの見た目がどうこうということに関しては個々人の感性に左右されることですし、気にならないという方もいらっしゃることでしょう。購入を検討中の方の中で"中華イヤホンみたい"と言われてピンとこない人は調べない方がいいかもしれません。知らぬが仏ということわざもあることですし...

音質

見た目に関しては結構辛辣に言わせていただきましたが、音質面では結構良い感じなのではと思っております。これまでで最も安価であったYSM-01との比較も交える形で音質面でのレビューを行いたいと思います。

 

一聴して思うのが活力に溢れているということでしょうか。YSMシリーズは個々のモデルに多少の違いは見られたものの、シリーズとしては解像度の高さや高域の煌びやかさを重視しており、ブランド名に違わないゆったりとしたアコースティックサウンドの表現力に長けたものに仕上がっていました。

 

TRY-01においてもやはり高域の伸びや抜けといったものは健在で、倍以上の価格であるYSM-01と比べても大差はないというくらいで、アコエフらしさを感じることが出来るでしょう。全体の見通しの良さや解像度という点でも非常に高い水準にあるのですが、こちらに関してはYSM-01には一歩及ばずというように思います。

 

そして本モデルを試聴して最もびっくりしたのが低音です。アコエフの象徴でもある高域と並ぶ形で低域の主張が明らかに強くなっており、全体としてドンシャリ傾向となっています。煌びやかな高域表現を邪魔することのないキレのある低音が印象的です。低域の押し出しが強くなったために音のバランスとしてピークが中低域あたりに位置してはいるものの、音像がぼやけるということは一切ないです。

 

音場は特に左右方向へ広く、分離の良さが特徴的です。音楽的な響き、艶やかさといったものも十分に持ち合わせておりますが、やはりドンシャリが故に中域が少々奥まって聴こえてしまい、ボーカルや小編成楽器のリアリティ、空間表現力といったものはYSM-01には及ばないように思います。

 

YSM-01は高解像度かつ高域を重視したバランスでありながらも柔らかな音像になっており、音を丁寧に拾っていくという響きを持っていました。そのため音数が多いような楽曲を聴くと音がダマになってしまうような印象があったため、バラード曲のようなスローテンポの楽曲と合わせることが多かったです。

 

対するTRY-01はフットワークが軽い音色に仕上がっており、ポップスやロックなどの中でも特に疾走感のある曲であってもしっかりと漏らさず鳴らし上げることが可能になったように感じます。音の分離が良いという点もまたこのスピード感の向上に役立っていることでしょう。しかしながら決して音が上ずってしまうような悪い意味での軽さというものではなく、あくまでも一音一音しっかりと着実に表現しつつも軽快に打ち鳴らしてくれる絶妙なバランスになっています。

 

低域の量感が向上しており、元気な響きを持っているという印象が強いです。解像度の高さや高域表現にこそアコエフらしさを感じられるものの、全体のバランスとして見てみるとこれまでにない方向性をもったイヤホンに仕上がっているように思います。

 

"アコエフ製品をより手軽に"といったコンセプトで作られたモデルのようなのですが、従来とは明らかに音の傾向が異なっているため、YSMシリーズの下位互換、廉価版と思って聴いてしまうと肩透かしを食らうかもしれません。逆に言うと既存のアコエフユーザーであっても要試聴、これはこれで気に入る可能性は十分あり得るということも言えるでしょう。アコエフの新たな挑戦をお試しください。

最後に

5分やそこらの試聴にそこそこの量を書き連ねてしまいましたが、好きなメーカーならよくあることです。やはり音の完成度は期待通りに高く、これまでとは大きく異なる方向性を打ち出してきたという点でも好印象でした。それだけに、音は良いのにこのケーブルかぁという点がネックになってしまうのも事実でしょう。

 

ちなみにこのTRY-01、お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、英字3文字と数字2桁をハイフンでつなぐというYSMシリーズと同様の規則性をもったモデル名になっています。しかも末尾の数字は01ということですから、今後TRYシリーズも02, 03と続いていくのかと勝手な妄想が膨らむばかりです。

 

そうなれば件のケーブルに関しても改善されるやもしれませんし、音の傾向はこのままに更なるブラッシュアップが図られる可能性も十分に考えられるでしょう。今後のアコエフの活躍に期待しております。